
さて、今回の例文解説は、中学校の卒業式で発表するPTA会長の祝辞です。
何よりの特徴は、自身も本校の卒業生であるという点です。
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本日、明村女子中学校を卒業される八十名の皆さん、おめでとうございます。
これは出だしの部分。
かならずしもこの文言から始まる必要はありませんが、冒頭に「おめでとう」を入れることで、祝辞全体がピシッと締まります。
実は私も明村の第二十三期卒業生でございまして、こうして壇上から皆さんの並んだ姿を拝見していて、とてもなつかしい気持ちになります。
自分も明村女子中学校の卒業生であることを述べています。
ここでは、自身も卒業生であるという事実のみを伝え、後段部につなげる形にしています。
好みの問題になりますが、ここで自分の在学当時の学校はどのようであったのか、今の本校に対してどんな風に思うのかなどを述べるのもいいのですが、気になるのは、結局、「自分が本校を卒業した」という事実は自分が主人公のお話であることです。
卒業式でもどんな場面でもそうですが、たいてい、人は自分のことと自分の周囲のこと以外のことに興味をいだきません。ましてや、それが思春期まっただなかの中学生(厳密に言うと中学を卒業する子供たち)であれば、なおさらです。
ですから、ここでは、あくまで事実を述べることに留め、後半の部分での前振りの役割にします。
今、皆さんの胸にはどんな思いが行き来しているのでしょうか。私立中学に進学を決めたと言うことで、小学校の友人と離れ新しい環境となり戸惑いを覚えたこと、けれど、すぐに友人に恵まれて、楽しい学校生活を送れたこと、皆さんを導き励ましてくださった先生方に対する感謝、部活で精いっぱい汗を流したという充実感、さまざまだと思います。それらの経験ひとつひとつが、皆さんを成長させ、そしてこれからの歩みの支えとなっていくことでしょう。
ここでは、私立の中学校を選んだからこそ、卒業生たちが思っているであろうことを述べています。
注目すべきは、この文言は、卒業生の皆さんに向けて話していると同時に、間接的に、卒業生の保護者に向けて話している内容でもあります。つまり、私立の中学校を受験した当事者は子供であることは間違いありませんが、3年前、中学受験を決意したのは、子供ではなく保護者です。稀に、早熟で聡明な12歳の子供が、「私(僕)、私立の中学に行くよ!」なんていう場合もあるでしょうが、まさに稀な例です。たいてい、子供の進路は親が決めます。ですから、この文言は、実は卒業生たちの心よりも、保護者の心により深く届いているはずです。
四月からは新しい生活がはじまります。ほとんどの方はこのまま内部進学となり、三年間つちかった友情は続いていきますが、同時に外部から入学してくる方との出会いもあると思います。ぜひ、いろんな人と積極的に交流して、いろんな考え方に触れ、刺激を受けてください。
自分と違う考えや振る舞いをする人に出会ったとき、なぜそういった行動をとるのか、その背景を考えて理解するのは、とても大切なことです。
最初は嫌な思いをすることもあるかもしれません。譲ったり我慢をする場面もあることでしょう。けれど、理解しあうということを決してあきらめずに、根気強く自分の考えを伝えていったり、接し方をいろいろ試してみてほしいのです。たとえ結果は思いどおりにならなくても、そういった経験で学ぶことは多いはずです。
中高一貫の学校を選んだメリットとして、ご依頼をいただく依頼者様からよく伺うのが、
1、受験がないので穏やかな環境で中高6年間を過ごせる
2、6年間、ずっと同じ友人と一緒にいることができ、生涯の友を得ることができる(ことが多い)
反対に、デメリットとしておっしゃるのは、
1、人の入れ替わりが少ないため、価値観の違いに直面したときの対応力がやや心もとない。
2、受験を経験して外部から進学してきた子供たちに比べて、バイタリティがない(少ない)。そのため、勉強もスポーツも差をつけられてしまう。
一長一短、帯に短し襷(たすき)に長しなわけですが、とりわけ、多感な年齢である子友達にとってみれば、
1、人の入れ替わりが少ないため、価値観の違いに直面したときの対応力がやや心もとない。
これが気になるところでしょう。
社会に出ると、素晴らしい人・心を通わせることができる人との出会いもあれば、あまり素晴らしくない人・たぶん一生心を通わせることがない人、など、さまざまな人に出会います。
そんなななかで、人間関係の構築の仕方を今のうちに身に付けておいてほしいんだということを、現時点で公立の中学校よりもいろんな種類の人と出会う機会が少ない本校の卒業生に述べています。
人間関係、大人になってもこれはなかなか難しいですからね。
私自身も中学高校を通して、さまざまな意見を持つ友人に恵まれました。友人が一人増えるたびに、世界がひとつ広がったような喜びがありました。また、私が悩んだり壁にぶつかったとき、違った角度から物事を見ている友人からの意見はとても参考になりましたし、反対に友人が悩んでいるとき、私の意見を伝えると感謝されました。
これから皆さんはいろんな場所でいろんな人間関係を築いていきます。そのなかで、それぞれの個性を受け入れる心の大きさと、互いを認め合う視野の広さを育まれることを願っています。たくさんの人と積極的にかかわり、どうぞ充実した高校生活をお過ごしください。
ここでPTA会長の経験談が入ります。
前半にある「私も本校の卒業生なんだ」という文言は、この箇所につながってきます。
自分の経験を通して話すことで、卒業生の皆さんに「ああ、そうなんだ」と思ってもらうのが主旨です。(しっかり話を聞いてくれているといいのですが 笑)
最後になりましたが、三年間、お世話になりました先生方とPTA活動にご理解とご支援をいただきました保護者の皆様に、この場をお借りしまして感謝申し上げます。ありがとうございました。
例文のため、最後はハショっています。
ここで保護者の皆様への言葉、先生方への言葉を挿入します。あるいは、来賓の皆様への言葉を入れてもいいでしょう。
ただ、あまり長くなりすぎますと、「卒業生たちへの祝福」の色合いが薄まってしまいますので、注意が必要です。
そして、最後に締めに入り、発表を終えます。
その他のPTA会長の祝辞:
→創立記念式典で述べる挨拶
→卒業式での祝辞(小学校)
→中学校の卒業式での祝辞
→中学校の入学式での祝辞
→高校の卒業式での祝辞
→高校の入学式での挨拶