「歴史」の重みを引き継いでゆく覚悟からは、潔い清々しさがあふれ出していて、こちらも襟元を正す思いがしてきます。
今回の依頼者様は、海外から帰国した子供たちが通う学校の運営関係者というお立場で、創立二十周年の記念誌に寄せる挨拶文(祝辞)をご依頼いただきました。
依頼者様ご自身は運営業務に携わるようになって実際には三年も経っていないとのことであり、まだ二十代というご年齢もあって、お話しを伺った際には開口一番「どうしたらいいものか困っておりまして・・・」と率直に戸惑いをお伝えいただけたことが印象深く、そして大きなヒントにもなりました。
我々の役割は、依頼者様の「本当の想い」を引き出し、頂戴した大切な想いを増幅し、聴き手の心に深く届くようお手伝いすることにあります。
それを実現するのに欠かせないのは何より、本音を語っていただくこと、に尽きるのです。
ですので今回のように依頼者様が率直に戸惑いを口にされ、そのあとも幾度か「どうしていいものか」と尋ねていただけたことで、インタビュアーも適切な導きをさせていただくヒントが得られ、結果的に厚みのある内容を頂戴することができました。
ご自身が生きて来られた歳月とほとんど重なる歴史を持つ学舎に対して、依頼者様はまるで幼い頃から知っている同級生のような親近感を、ごく自然に抱いておられることが伝わってきました。
だからこそ、戸惑いがある。
ご自身が抱く親近感とは裏腹に、学校の歴史についてはほとんどご存知ないままに、日々の業務の忙しさに追われていることを、非常に悔やんでおられるご様子でした。
祝辞を述べる役目を仰せつかった際、数ページほどの資料を手渡されたそうですが、それでは不十分だと依頼者様は感じられたそうで、仕事を終えられたあとの時間を使い、ご自身でも学校の歴史について調べられたのだそうです。
そうして、今日この学舎があるのは、決して「当たり前」ではないことを知り、改めて学校への愛着が深まると共に、このように素晴らしい歴史を持つ学校の運営に携わっていられることを、とても誇らしく感じたのだそうです。
先人がたくさんの熱意と苦労を積み重ねて守ってきたこの学校を、自分たちもしっかりと受け継ぎ、次の世代へと渡していかなければならない。依頼者様は強くそう感じられているご様子でした。
そんな依頼者様の覚悟に触れ、我々もまたひとつ成長させていただくことが出来る。「想い」に接することは、本当に素晴らしい経験だなあと、毎回こちらのほうが感激させていただいているのです。