【はじめの挨拶】
今、もしここにじいちゃんがいたら、「男がめそめそするな」と背中を叩いてくれたんでしょう。でも、そうじゃないという事実に、僕の胸には大きな空洞ができたままなんだと思い知らされます。
典型的な「頑固ジジイ」を地でいくじいちゃんは、昔から近所の子供たちに恐れられていました。ピンポンダッシュをされようものなら子供相手でも本気で怒るし、立ち入り禁止の空き地で遊んでいる子を見つけたら首根っこを捕まえるし、おかげで僕までクラスの子たちから「あのおじいさんの家の子だ」と恐がられる始末でした。
でも、じいちゃんのそれがいわゆる愛の鞭というか、怒りたいがためにしていることじゃないというのは、実はみんな知っていました。いつもしかめ面で恐そうでな見た目に反して、本当はとても優しい。転んで泣いている子には迷わず手を差し伸べるし、誰も危ない目にあわないように常に目を光らせている。そんなじいちゃんだから僕は、クラスの子に恐がられても、ちょっとへこんだりはしたけど、恥ずかしいとかイヤだとか、そんなことは思ったことがありませんでした。むしろ、自慢のじいちゃんでした。
去年の春、じいちゃんが倒れたと聞いたときは、僕のほうが先に心臓がとまるんじゃないかと思いました。慌てて実家に帰って、じいちゃんに会って、また心臓がとまるかと思いました。典型的な頑固ジジイ。そのじいちゃんが、なんでこんなに小さく見えるんだろうと不思議で、恐くてしょうがなかった。
でもじいちゃんは、会った途端に泣き出した僕に言いましたね。
「久しぶりに会えたのになんで泣くんじゃ。笑わんか。」
それを聞いた僕がさらに泣くから、じいちゃんは怒って、僕の肩を殴って。その力のなさに、僕はいくら殴られても涙をとめることができなかった。これがあのじいちゃんの拳なのかって。
そのときの感触が、今もまだ残っています。じいちゃんの拳の硬さとか、背中を撫でてくれた手のひらの大きさとか、しわしわな感じとか。感触はあるのにじいちゃんがいないって、何度も泣きそうになるけど、そのたびに「笑わんか」っていうじいちゃんの声も一緒に思い出して、前を向こうって思います。
じいちゃん、寂しいです。悲しいです。こんなことを言って怒られるのはわかっているけど、今日だけは許してください。明日からはまた、顔を上げて笑うから、そして、いつじいちゃんが見てくれていてもいいように、しっかり生きていくから。
それでももし、僕がまためそめそし始めたら、そのときは、昔のような強さの拳で喝を入れてやってください。
じいちゃん、ありがとう。本当に、ありがとうございました。
【締めの言葉】
平成29年 2月15日
孫代表 小松田宗太