株式会社すみだ醤油 代表取締役会長 故角田重起さんの御仏前に、謹んでお別れの言葉を申し上げます。
帰らぬ旅に赴いて、早一ヶ月。角田会長は今、空の上でどうしておられるでしょうか。あなたの訃報に接した9月3日、私ども大村食品一同は、ただ寂しさで胸が一杯となり、大切な人を失った虚無感を抱きながら、本日までを過ごしてまいりました。
角田会長と私との出会いは、20年前。私が開発部長時代でございました。当時、私どもは、本物の醤油ラーメンをカップめんとして開発し、売り出し、即席めん市場を席巻しようともくろんでいました。その過程で、類を見ない醤油の製造を行っている会社があると聞きつけ、それが角田会長率いるすみだ醤油様でございました。
「なぜ俺の醤油をカップめんごときに使わせなきゃならないんだ」
お会いし、開口一番、角田会長が私に発した言葉です。
懇々とすみだ醤油様の醤油を使わせていただきたい旨をお話させていただきましたが、その、他を寄せ付けぬ圧倒的な存在感に私どもはひるみ、何もいいお返事はいただけぬまま帰社しなければならないことを覚悟しました。
そのときでした。
「お前みたいな若い奴がやってるんだ。しょうがねえ。譲ってやるよ」
くしゃっと、目じりにしわを寄せて笑って話したあなたの面持ちは、まるでむやみに夢を語る息子に未来を見たような、親父のごとき優しいものでした。
以来、私のことをまるで実の息子のように接していただき、私が当社の代表の任を預かることになったときは、誰よりも先に激励と祝福のお言葉をいただきました。
時が経ち、現在、大村食品が即席めんの雄として、社会の地位を確立することができたのは、角田会長、あなたのあのときの一言があったからであるということは、私や社員一同の共通の認識でございます。
不帰の客となったあなたは、今空の上から私をどのように見ていらっしゃいますか。きっと「お前のような若輩がよくも俺の前で偉そうなことをしゃべっているな」と嘲笑されていらっしゃるかと存じます。
そのとおりです。おっしゃるとおりです。本当は今日、その姿をじかに見とうございました。じかに厳しく接していただきとうございました。それが叶わなくなったことは痛恨の極みであり、本日、改めて、あなたを失った受け入れがたき事実を知り、そこはかとなく、私の人生にひとつの区切りがついたような気がします。
大きな悲しみは消えるものではございませんが、その悲しみを胸に、私は今日も明日も明後日も、またすみだ醤油様の醤油をふんだんに用いたカップめんの販売に心血を注いでまいります。どうぞ悠遠の彼方よりお見守りください。
角田会長、感謝です。ただただ感謝です。本当に、本当にありがとうございました。どうぞやすらかにお休みください。
御仏前において、在りし日のお姿を仰ぎつつ、数々のご厚誼に深謝申し上げ、ご冥福を心からお祈り申し上げまして、別れの言葉といたします。
平成22年10月3日
大村食品株式会社
代表取締役社長 大村充