壇上に立っている。マイクを持つ手が震えている。声も少し上ずっている。顔が熱い。たぶん赤くなっている。
「みんな、気づいてるだろうな」
そう思いながら話している。早く終わりたい。この震えを、この赤面を、誰にも見られたくない。
──でも、実際のところ、聞き手にはどう見えているのでしょうか。
自分の緊張は、自分が一番よく知っている
当たり前のことですが、自分の体の状態は自分が一番よくわかります。
心臓がどれくらい速く打っているか。手のひらにどれくらい汗をかいているか。声がどれくらい震えているか。全部、自分には手に取るようにわかる。
だから、過大評価します。
「こんなに震えているんだから、絶対バレている」「こんなに心臓がバクバクしているんだから、声にも出ているはず」「顔がこんなに熱いんだから、真っ赤になっているに違いない」
でも、聞き手はあなたの心臓の音を聞いていません。手のひらの汗も見えません。声の震えも、本人が思っているほどには聞こえていません。
聞き手は「話の内容」を聞いている
考えてみてください。あなたが誰かの挨拶を聞いているとき、何に意識が向いていますか。
「この人、今ちょっと声が震えたな」「あ、原稿を持つ手が揺れてる」「顔が赤くなってきた」──こんなことを、ずっと観察していますか。
していないはずです。
聞き手は話の内容を聞いています。「何を言っているか」に意識が向いている。話し手の状態を監視しているわけではありません。
もちろん、最初の数秒は「どんな人だろう」と見ています。でも話が始まれば、意識は内容に移ります。よほど極端な状態──たとえば話が止まってしまう、声がまったく出ない──でなければ、「震えていた」という印象すら残らないことが多い。
隠そうとする行動の方が目立つ
ここで逆説的なことが起きます。
緊張を隠そうとする行動の方が、かえって目立つのです。
声の震えを隠そうとして、早口になる。聞き手は「何を言っているかわからない」と感じる。
目を合わせるのが怖くて、ずっと原稿を見ている。聞き手は「この人、誰に話しているんだろう」と感じる。
緊張を悟られたくなくて、声が小さくなる。聞き手は「聞こえない」と感じる。
震えそのものより、震えを隠そうとする行動の方が、聞き手の印象に残ります。
聞き手は「完璧な話」を期待していない
ここで、聞き手の期待値について考えてみます。
保護者や先生方は、PTA会長に何を期待しているでしょうか。流暢なスピーチ? プロのような話術? 一言一句よどみのない語り?
そんなことは期待していません。
期待しているのは、「保護者代表としての言葉」です。子どもたちの節目に、保護者を代表して何かを伝えてくれること。それだけです。
上手いかどうかは、実はそれほど重要ではない。「この人、一生懸命話しているな」「ちゃんと考えてきたんだな」──そう感じられれば、聞き手は好意的に受け取ります。
完璧である必要はありません。完璧を目指すから、そこからのズレが気になる。最初から「完璧でなくていい」と思っていれば、多少の震えは気にならなくなります。
「完璧すぎる」と距離が生まれる
むしろ、完璧すぎると逆効果になることがあります。
流暢すぎる話し方、練習しすぎて滑らかすぎる語り口。聞き手は「上手いな」とは思うかもしれません。でも同時に、「この人、慣れてるな」「いつも同じ話をしているのかな」という距離も感じます。
少し詰まる。少し言い直す。少し間が空く。そういう「人間らしさ」が、かえって聞き手との距離を縮めることがあります。
PTA会長は、講演家ではありません。同じ保護者の一人です。同じ立場の人間が、たまたま代表として話している。その「同じ立場」感を壊さない方がいい。
だから、多少緊張していても、それがマイナスになるとは限らない。むしろ「一生懸命話している」という印象につながることもあります。
一つの実験
こんな実験をしてみてください。
過去に自分が聞いた挨拶を思い出してみます。PTA会長でなくても構いません。結婚式の祝辞、会社の朝礼、何でもいい。
その人が「緊張していたかどうか」を、覚えていますか?
たぶん、ほとんど覚えていないはずです。覚えているのは「何を言っていたか」か、せいぜい「良かったか、良くなかったか」という印象だけ。
「あの人は声が震えていた」「手が震えていた」──そこまで記憶している挨拶は、ほとんどないはずです。よほど極端でなければ、緊張していたかどうかは記憶に残らない。
つまり、あなたが今心配していることは、聞き手の記憶にはほぼ残らないということです。
聞き手はあなたの味方でいたい
もう一つ、忘れがちなことがあります。
聞き手は、あなたの失敗を期待していません。
入学式や卒業式に来ている保護者は、子どもの晴れ舞台を見に来ています。良い気分でいたい。PTA会長が恥をかくところなど、見たくありません。
だから、聞き手は基本的にあなたの味方です。うまくいってほしいと思っている。多少の震えがあっても、好意的に解釈しようとする。
敵だと思って見ている人は、ほぼいません。審査員のように採点している人も、いません。ただ、あなたの話を聞こうとしている人たちがいるだけです。
自分を客観視する
ここまでの話をまとめると、こうなります。
自分の緊張は、自分が一番よく感じている。だから過大評価しやすい。でも聞き手には、そこまで見えていない。聞き手は内容を聞いている。完璧を期待してもいない。むしろ味方でいたいと思っている。
この事実を知っておくだけで、少し気が楽になりませんか。
「震えている」と思っても、それはあなたの内側で起きていること。外からはそこまで見えていない。そう思うだけで、震えに振り回されにくくなります。
この回のまとめ
- 自分の緊張は、自分が一番よく感じている。だから過大評価しやすい
- 聞き手は話の内容を聞いている。話し手の状態をずっと観察しているわけではない
- 緊張を隠そうとする行動(早口、目を合わせない、声が小さい)の方が目立つ
- 聞き手はPTA会長に「プロの話術」を期待していない。期待しているのは「大勢いる保護者の一人としての言葉」
- 聞き手はあなたの味方でいたいと思っている
次回は最終回。「震えたまま、最後まで話し切る」ための具体的な話をしていきます。






