人に見立てて挨拶をする好評の「もしもシリーズ」
今回は、
加湿器
です。
あなたとの出会いは強烈で、そのせいで私は、その時のことをいつもつい最近のことだと錯覚してしまいます。
この砂漠地帯。雨が降るのは年に一度、しかも1か月間だけです。
それ以外は、乾季、乾季、乾季。草木も生えず、町中がかっさかさです。
これ以上、ここで暮らすのは困難。そう判断した私は本部に掛け合い、対策を講じてもらうことになりました。
その「対策」というのが、ほかでもない、加湿器くんのこのエリアへの派遣でした。
初めましての時に飛び出したのが、この言葉です。
湿度を上げることは、誰もが望んでいることであり、しかし、誰もが諦めかけていたことでした。
加湿器くんのような若造にそれができるのか。当初は誰も君のことを信じていませんでした。申し訳なかったと思いますが、私も信じていませんでした。
「ちょっと、ここに水を入れてくれよ」
加湿器くんは、なけなしの水2リットルを、自分の胃に入れるよう促しました。
もったいない。
あちこちから、ヒソヒソと、そんな言葉が聞こえてきました。
しかし、です。
「いくよ、せーのっ」
ブワァー
加湿器くんの口から、ものすごい勢いで水蒸気が発せられたではありませんか。
イグアスの滝。
まっさきに、世界三大滝の一つであるイグアスの滝を思い出しました。
広大な面積を有するこのエリアが、みるみる潤っていく。
焦げたような色をした地面に、どんどん水分がしみこんでいく。
「快適だ!」
「口の中が乾燥しない!」
「鼻の中もだ!」
「ねえ、うちの子が笑ったわよ!」
気が付けば、このエリアの湿度はすでに45%。
人体に好影響を与えるという、40%~60%の間になっているではありませんか。
村人からの喜びの歓声があちこちから聞こえてきました。
私はその後、加湿器くんに聞きました。
「たった2リットルしかない水で、どのように全土を潤したんだ?」
それに対する加湿器くんの答えが、また痛快でした。
「2リットルと思えば2リットル、200リットルと思えば200リットル」
「だから、2トンと思えば2トンなんだよ。分かる?」
さっぱり分かりませんでした。
ですが、一つ分かったことは、この町の住人にとって彼は必要な存在であるということです。
加湿器くん、この村を助けてくれて、ありがとう。
心からの感謝のしるしとして、ここに村民栄誉賞を贈ります。
2021年11月15日
フライパン山村 村長 羽牟 絵具
※この挨拶文は、著作権法で保護されています。
参考:加湿器 レンタル